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ネタバレ有【感想】映画『キャッシュトラック』:下手なホラー映画より怖かった

ガイ・リッチー監督の最新作。今年5月『ジェントルメン』の記憶が新しいなか、まさか年に2回もガイ・リッチー作品を観られると思わず、なぜか映画館で予告編も見かけなかったので、ポスターだけの印象で素通りするところでした。

 

お話は、「ロサンゼルスにある現金輸送を専門とする警備会社にワケありげな新人が入社してきたところ、案の定、彼には事情があって……」という感じ。

主人公たちは、銀行やカジノなどから依頼され、大量の現金を積んだトラックを運転する仕事をしています。当然、強盗などに襲われることが多く、入社時には銃の特訓などを行うのが必須の、危険な職業。何も起きないわけがありません。

 

事前に見かけた感想では、「胸糞」「ガイ・リッチー得意の時間行ったり来たりのせいでテンポ悪い」「脚本の詰めが甘い」「せっかくジェイソン・ステイサムが主演なのに、アクションが全然ない」等々、評判が悪かったのですが、年齢のせいか、ムービーウォッチメンに当たったわけでもない重い映画を、自発的に観に行くのに、心の体力(?)が必要になってきた自分にとっては、この程度の陰惨さでも「うーわ……」みたいになってしまい、かなり見応えがあり、楽しかったです。タオルハンカチを握りしめながら観ていたのですが、終わった後、ハンカチが手汗でぐっしょりになっていた……

 

とにかく冒頭シーンが神がかっていました。輸送会社の平社員運転手の目線から、「よーし今日もがんばるぞ!」とか言いながらトラックの運転席に乗り、トラックを運転しはじめると、突然、工事車両が目の前に止まり、中から工事作業員の恰好をした人が、こちらに銃を突きつけながら降りてくる。要は、現金輸送の仕事をしている人が、仕事中に強盗に襲われる様を、ドキュメンタリーチックに映した場面です。このシーン、あくまで「運転手」の主観に徹し、何が起きているのか、車の外にいる敵と思しい人たちが何人くらいいて何をしてこようとしているのか、まったくわからないし、視界に見えないようにしています(物陰が多く、文字通り画面に映らない)。「え、あれ、え、銃?!、あれ、え、工事の車じゃないの?!?!」という混乱のなか、外から無理やり車体をこじあけられ、どこに向けているのか銃声も聞こえ、かと思えば催涙ガス?のようなものを車中に放りこまれ……と、「ああ、まさにテロとかの現場に居合わせたらこんな感じなんだろうな……」を150%再現していてとても怖かった。しかも、カメラは運転手側の主観ということで、トラックの車内に置かれているのですが、犯人が運転手を外に引きずり出した後もあくまで車内に残り、相変わらず音はすごいけど車の外で何が起きているのかわからない状況が続いたのち、どうやら、運転手は殺されたようなんですね。それが音だけで「なんとなくそうじゃないか」と伝わってきて、見えない分、余計に恐怖を掻き立てられる。

この、タイトルが出るまでの冒頭数分?のシーンだけで完全にノックアウトされ、『ジェントルメン』的なものを期待した私にとっては「うーーーーーーーわこの映画めっちゃ怖いやつじゃん………」と衝撃&テンションがガタ落ち(褒めています)。続いてガイ・リッチー監督お得意のオープニング映像が始まるのですが、これもまた最初から死を暗示するシンボル(天使とかそういうやつ)満載で(しかも今回のオープニング曲は、歌がない!!!)、「うーーーーーーーわこの映画めっちゃ怖いやつじゃん………」と、テンションがガタ落ちしていく………

 

↓今回のオープニング映像。エッチングと言っていいのかなんだかの恐ろしげな図像の羅列に「なんだかんだ死ぬから!!!」と朗らかに宣言されたのはいいものの、いざ本編もまた……という刹那的さ、熱意が謎

 

そして本編が始まるのですが、この映画、1つ特徴的なのは、ホラー映画のように「今か? 今か???」と観ている人の緊張感を煽ってくるおどろおどろしい音楽が、ほとんど全編にずっと、かかりっぱなしだということです。途中、家族や仲間で楽しい誕生日パーティー的なシーンもあったのですが、その場面ですら、おどろおどろしい音楽がだんだん入ってくるので「こんな誕生日会のシーンあるか?!」と、びっくりしました。何よりも、私自身が、ホラー映画が大の苦手なため(それも、グロが苦手というよりは「今か? 今か???」が苦手……)、2時間ずっと「今か? 今か???」BGMが流れっぱなしの本作、とても怖かったです。

実際、お話もかなり悲惨で、最後は主人公(とその一味)以外、出てきた人は全員死ぬという顛末で(冷静に考えると「なんだったんだこの話w」という無常観)、なんか久しぶりに「あー今ちゃんとグロいやつ見てるなぁ」という満足感(?)もあり、そこも良かったです。もちろん途中、拷問シーンが「おえっ」だったり、敵だと思って潜入してみるマフィアが(恐らく)子どもを使うスナッフフィルムのような何だかを作るような組織で、画面の端っこで、スナッフフィルムっぽいものが音声付でちらっとずっと流れ続ける場面もあり、ドシンと来ました。『ジェントルメン』でも、豚とのf○ck映像を撮るという、しょうもないがやらされた本人にとっては悲惨な場面を、秀逸といっていいだかなんだかのギャグ的な見せ方で出してきましたが、ああいうオフザケが出来る人が本気で怖いものを作ると本当に怖い。「人を感動させられる人より笑わせられる人の方が実は怖い」自説を、改めて実感した映画でもありました。相変わらず間の取り方とか、カメラワークとか、いちいち素晴らしいんですが、それを恐怖方向に全振りされると、こうなるか

 

新宿バルトナインで観てきて、観る前にちょっとお腹が空いてたのでフィッシュアンドチップス食べようかな、どうしようかな、と悩んだんですが、結局買わないで観ることにした自分が本当に偉い。食後にこんな映画みたら気持ち悪くなっていた!

 

最後に、いろいろ感想を書いてきましたが、でも実は観終わった後は「怖かったな~」「グロかったな~」くらいしか残らず、あんまりメッセージ的には重くなく、エンタメ映画としてさっぱり楽しめる後味のなさも、特徴なような気がします(あんまりこの映画について考えても仕方がない感というか)。1番気になるのは、今作は2004年のフランス映画『ブルー・レクイエム』のリメイクとのことなんですが、ガイ・リッチー監督が、このご時世にどうして今さら、現金輸送車の襲撃事件をめぐる話を映画にしようと思ったのか、ですね(白人マッチョが無双する話でもある)。軽薄や不謹慎なギャグというガイリッチー監督の長所を封印してまで作るべき映画だったのか?? 原作観てないのでわからないのですが、監督がよっぽど好きな映画だったんでしょうか。冒頭シーンが凄かったことや、時系列シャッフル叙述トリックが冴えわたっていることはじめ、ガイ・リッチー監督の手腕を堪能できたのは嬉しかったですが、これ作るなら『ジェントルメン』のアイツらどうしてんのかな……とか、『コードネーム U.N.C.L.E.』の続き作ってくれよ……と、思ったり思わなかったりしました。また引き続き、監督の新作映画を観れるのを楽しみにしています!

 

余談ですが、前作『ジェントルメン』については、現在キネカ大森で上映中とのこと。キネカ大森、『ベイビーわるきゅーれ』も上映しているらしい。行きたい!