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ポエム:ハンバーガー愛好会

 この世で最も美味しい食べ物は、できたてのハンバーガーだと思う。
 

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 もちろん、マクドナルドのハンバーガーではない。マクドナルドのハンバーガーも大好きだが、そうではなく、個人で経営しているハンバーガー屋で出されるハンバーガーの、1つ1つの違いこそを、私は愛していた。

 初めて訪れる店に行くと、ダブルバーガーや、チリビーンズバーガーや、アボカドや卵やチーズを入れた分厚いハンバーガーにかぶりつきたいのを、ぐっとこらえ、まずは、その店で1番シンプルなハンバーガーを頼む。もちろん、ピクルスとフライドポテトを添えてもらうのも忘れない。
 注文をしてからは、キッチンでハンバーガーが出来上がるところを、じっくり想像しながら待つ。たまに、バーのようにこじんまりしたお店で、厨房スペースと客席が近く、作る過程が見れるようなところもあるが、そういう時は、あえて目をつぶる。
 ジュージューという音をたてながらパティが焼ける。軽くあぶられたパンに、バターやマヨネーズがさっと塗られる。そこに、いよいよ焼きあがったパティと、トマトと玉ねぎとレタスがサンドされ(熟練したハンバーガー屋ほど、まるで「投げている」と言っていいほどの素早さで、テンポよくパンの上に具を積み上げた)、そうこうしているうちに、ハンバーガーが出来上がる。
 同時に、パチパチとはじけながら揚げられたポテトが、キツネ色になり、ザルにさっとあげて油を切られ、塩を振られ、ハンバーガーが鎮座する大きめのプレートに、こぼれるように盛り付けられた。
 いつでも、作りたてのハンバーガーの、一口目を食べる瞬間が大好きだった。「このお店のハンバーガーは~」なんて冷静に考えはじめるのは、三口目に差し掛かり、落ち着いた頃だった。
 口いっぱいに広がるパティの肉汁、トマトの酸味とレタスや玉ねぎの苦みや触感。それらをすべて包み込む、ふかふかながらも確かに小麦の味がする、焼けた香ばしいパン。 
 この世で最も美味しい食べ物は、できたてのハンバーガーだと思う。
 
 私は、ハンバーガーを提供する店なら、例えどんなに無名だったり小さかったりする店でも、自分ができる範囲で、訪れるようにしていた。
 その結果、生まれて初めてハンバーガーという食べ物を食べた時から、100年を超す年月が経っていた。
 自分でもどうかと思う月日だが、なにせ、私が生まれた時代は、地球にロクな食べ物がなく、昆虫と雑草が、人類にとっては主な栄養源だった。
 世界で初めてタイムスリップに成功し、辿り着いた20世紀初頭のセントルイス。見知らぬ世界に右往左往しながら、偶然かぶりついたハンバーガーの味を、忘れることはできなかった。
 
 それから私は、全人類の未来がかかったせっかくの新発明を、私的乱用する国際指名手配者として、時空を超えて追われている。タイムスリップを繰り返した結果、自分がいま何歳なのか、元いた世界がどこなのか、もはや思い出せない。
 だが、それで結構だ。
 私の人生は、ハンバーガーを食べるためにある。