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映画の感想やポエムなど

【感想】※ネタバレ無『偶然と想像』:映画だけでなく人生の初心を、思い出させてくれた

これは面白い!!!
様々な人生を肯定したくなる優しい作品だった。脚本が凄い。ドライブマイカーは長すぎて合わなかったが、これは大好きでした。


(鑑賞直後にfilmarksへアップした、自分向けの一言感想メモ)

 

最近、三宅隆太監督のポッドキャストを聞いているのだが、その最新回か何かで、三宅監督がリスナーからの、面白い質問に答えていた。

 

「自分は30代になって、映画館で映画を観る楽しさを知り、最初の頃、年間40本くらい見ていた時は、映画の内容を細かいところまで覚えていたが、年間100本以上見るようになってから、『面白かったな』という記憶はあるのだけれど、映画の中身を全然覚えられなくなってしまった。
三宅隆太監督のように、小さい頃から映画漬けのエリート教育を受けている人は、どんなに沢山映画を観ても、映画を細かいところまで覚えていられるのだろうか」

 

三宅監督の答えは、NOで、自分は仕事でもプライベートでも沢山映画を観るが、細かいところを全然覚えていないことも多いし、最近では、お金を払って映画館に行ったにもかかわらず、途中で寝てしまうこともある。
思うに、映画館で映画を観る楽しさを初めて知り、年間40本を見ていた頃のあなたにとっての映画の価値と、年間100本以上見るようになって数年経つ今のあなたにとっての映画の価値は、違うのでは?(うろ覚え)


※三宅監督ご自身は、その後、最近のブロックバスター超大作と、昔の映画では、同じ「映画」といっても全く質が違う映像作品になっていることへの言及や、中学生の時にお小遣いで観に行った『ターミネーター』と、いまお金もそれなりに持っていて50歳近くで観るマーベル映画は、自分にとってのかけがえのなさが違う、といったような話をされていました(曲解、間違いなどありましたらすみません)

 

その話を聞いて、私は2つ、思うことがあった。


1つ目は、「あ、これ私も同じじゃん」と思った、ということだ。


私が映画が好きになったきっかけは、大学1年生の時に「第1回 午前十時の映画祭」にたまたま遭遇し、毎週通うようになって、名作とされている過去作品を浴びるようにみたのがスタートだったが、本格的に映画を観る面白さを知ったのは、宇多丸さんのムービーウォッチメンの存在に気が付いたことだった(2014年当時公開された『ゴーンガール』評を見つけたのがきっかけ)。毎週ガチャでランダムに当たる映画たちのなかには、自分が苦手だったり全く想像もしていなかったりする映画もあり、それらに対しリスナーさんや宇多丸さんが賛否両論の批評をする様が面白くて、「ああ、映画を観るのって楽しいなぁ」と思ったのだった。


しかし今では。そもそも、どんな映画に対しても、だいたい冒頭10秒で「はいはい、こういうやつですね」みたいな上から目線の態度で観がち(最悪)。見ていて面白くないと思ったら、最初の30分でも躊躇なく途中退場してしまうようになった(最悪)。また、宇多丸さんのガチャにあたっても、ホラー映画や、本当にキツそうな映画は、パスするようになってしまった。『SNS -少女たちの10日間-』を見ていないのが気がかりだが、一方で、「観なければよかった……」と今でも夢に見るキツい映画が沢山できてしまった今、『SNS』は今後も見ないだろうな、という自分がいる。「映画館でまで傷つきたくない」という意識、年を取ってしまったなと思う。たとえホラーでもホロコーストでも、好奇心片手に無邪気に突っ込んでいっていた20代の私は、今ではいない。映画館に求めている役割が、「ディズニーやマーベル映画に対してやいのやいのと、高見の文句を発散する場所」になってしまっているなと、気が付かされた。


端的に言えば、映画に驚くことが、少なくなってしまったのだ。また同時に、映画鑑賞者としての己の足腰は本当に、弱くなってしまった。19歳の私が初めて映画館で観た『ゴッドファーザー』によって完全に映画に引き込まれたのはわかるよ、今でも『ゴッドファーザー』は大好きだよ。でも、その数年後、リバイバル上映された伝説的な邦画『GONIN』(1995年)とか、どこかでやっていた『裁かるるジャンヌ』に対してとか、また大学の視聴覚室で1人戦艦ポチョムキンを借りて見ていた、あの頃と同じ無邪気さで、映画に対して突っ込むか???と言われたら、今だったら行かないし、だったらキングスマンの続編を観たい。毎週、午前十時の映画祭に嬉々として足を運んでいた大学1年生の頃や、土曜日の夜のムービーウォッチメンを楽しみにしていた自分は、どこかに行ってしまった。

 

2つ目は、一方で今年、私の彼氏が、一緒に映画と宇多丸さんのラジオに付き合ってくれて、何十回も映画館に行ったのだが、彼氏は、それまであまり映画館で映画を観ない人で、彼こそ今、映画と本当に幸せな時間を過ごしている、と思って、羨ましくなった。一口に映画と言っても、『JUNK HEAD』もあれば『MONOS』もあれば『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』もある。「うわ、こんな映画があるんだ」「あんな映画があるんだ」「こんなことまでやっちゃっていいんだ」「こんな意味不明な映画もあるんだ」(なかには「お金かかってるはずなのにこんな面白くないってどういうこと?」とか「わざわざ千数円払ってなぜこんな退屈な時間を過ごしているんだろう」とかも大きく◎)、とにかく、初めて映画の世界に触れた、もう私にはなくなっちゃった感覚を持って、映画を見てくれている人が、毎週隣にいるんだ(いたんだ)ということを、三宅監督の話を聞いて、改めて思った。同床異夢ではないが、同じ作品を観ているはずでも、体験は人によって全然違う。

 

なんでこんな自分語りから始めたかというと、一言、『偶然と想像』が、とても素晴らしかったからです。
見ている間、久しぶりに、「え、これどうなるの?!?!」と手に汗を握りっぱなしで、いつまでも映画の世界にいたかった。「この映画を見ている時間が永遠に続けばいいのに……」という心地よさ。映画が終わってしまう頃には、映画が終わるのが、寂しかった。


でも、映画館から一歩出て(渋谷のbunkamuraで観たのですが)、渋谷の雑踏に出た時、「ああ、今この目の前にいる人たちのこと、本当に全然知らないけれど、どんな一人一人の人生にも、偶然と想像があるんだな」と、謎の多幸感に包まれました。映画を見る前と後で、世界の見え方が変わってしまうのは久しぶり。夕方、マジックアワーの渋谷を、bunkamuraから宮益坂までふらふら歩き、色んな人を眺めたあげく、「もう歩いちゃえ」と思って、渋谷から歩いて帰宅しました(徒歩1時間強)。

 

映画は映画なので、言葉で説明するのが、大変難しい。
まして、今日見た映画がどんなに良かったか、昨日どんな感じの1日で、今朝はどうで、どういうことがあって渋谷に行ったら、思いがけず大変好きな映画に出会えたかを、他人と共有するのは、本当に難しい(共有できないししなくていいことかもしれない)。

 

その後、どうにもこうにも熱が収まらず、夜遅くベッドに寝そべりながら、うっかりfilmarksで、フォロワーでもなんでもない、見ず知らずの女性の方と(プロフィールや感想に絵文字使いまくりのご機嫌な人)、この映画の感想について、やり取りをしてしまいました。感想について、他人の感想に突っ込んだのも初めてだし、まして会話した経験も初めてです。そもそもfilmarks、備忘録のために使っていて、リアルの知り合いは誰もいないのに。それくらいの魔力を持っている映画でした。『偶然と想像』。

 

映画だけでなく、自分の人生や、人間や、世界が捨てたものではないということ。私のなかにいる19歳の私が呼び起されました。

 

ちなみに、同じく偶然をテーマに扱った作品として、フランス映画『悪なき殺人』も、数日前に観てきたのですが、こちらは全然ダメでした。
偶然が偶然を呼び起こす、人間関係のピタゴラスイッチ……みたいなミステリーで、脚本の完成度とかアイデアの「そう来たか」感は凄いですが、ピタゴラスイッチをやりたいためにやっている感とか、露悪趣味感が、つい鼻につき、「吹雪映画って最高だね」くらいの感想しかなく……(私はこの映画の観客じゃない)。 そもそも映画宣伝のキャッチコピーが「人間は偶然には勝てない」。「まぁそうだよね」とも思うキャッチコピーではあるけれど、『偶然と想像』を見た後だと、偶然に勝つとか負けるとか、人生ってそういうことじゃないじゃん。勝つとか負けるってなんだよ? 何に??? みたいに、なんか急激にムカついてきました(笑) 
『悪なき殺人』が悪いのではなく、私自身の問題です。『悪なき殺人』から、製作陣の意図を超えて勝手に、「多種多様の人間たちの人生を高見からバカにしている感じ」を、映画冒頭10秒で「あーはいはい」となる私が、汲み取ってしまい、自己嫌悪として嫌いに感じてしまった、というのでした。観たことがないピタゴラスイッチだったので本当に凄い映画だったんですが、なぜ『偶然と想像』みたいに素直に見れなかったのかと、私側の問題として心にとどめています。

ちなみに、映画と観客ではなく、本と読者という関係で、同じトピックを『偶然と想像』がきっちり盛り込んでいることも今、気が付きました。

あー、こわ!!!(笑)

一事が万事、何なんだろうかこの普遍性。

 

平日の昼間だと言うのに、bunkamuraがほぼ満席で、会場から笑い声があがっていたのもまた、印象的でした。隣にいた映画オタク学生?っぽい男性とか(上半身しか見ていなかったので、失礼にも「うわーこの人絶対、モテない、よくいる映画好き学生だろうな……」と思ったら、映画終了後、立ち上がったなか、下半身が思いのほかお洒落なズボンとスニーカーを履いていて度肝を抜かれた)。反対の隣にいた、予告編中に眠りはじめちゃって、「はじまりますよ」って肩トントンしようかなと思ったら奇跡的に直前に自力で起きたおばさんとか。あの人たちはこの映画をどう思ったのか。


あと、filmarksで本当に丁寧に、見知らぬ通りすがりへ感想合戦をしてくれた、あの女性。色んな人の感想を眺めているんですが、私と同じ点にひっかかって書いていたのはあなただけだったんです。「そのことが嬉しかったです!」と書いたら「嬉しいです、お互い2回目見るのが楽しみですね」みたいな返信で、嬉しかった。プロフィールが「三浦春馬君追悼……」みたいな言葉から始まるので、この映画がなければ絶対に絡まなかった方でしょうが、これもまた、偶然と想像ですね。

 

魔法のように特別なファーストコンタクトを経たうえで、2回目を迎えるのが怖い、というテーマも、『偶然と想像』でしっかり出てきます。


あーあ、2回目見て、全然面白くなかったらどうしよう??


それもまた、いいかな? いいか。いいです。


面白い映画とは何か、面白い物語とは何か、人生とは何か、を教えられる勉強テキストとして、永久保存版で、ずっと見ていたい。