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感想『DUNE/デューン 砂の惑星』:夢は深淵からのメッセージ

10月15日から絶賛公開中の『DUNE/デューン 砂の惑星』を観た。IMAXで観てとても楽しかったので、通常の字幕版でも観てしまった。が、比較すると絶対にIMAXで観た方がいいなと思った。なお、原作小説や、これまで映像化された作品は未見、生まれて初めてのDUNEだった(アフターシックスジャンクションでの特集「『DUNE / 砂の惑星』をより楽しむための『DUNE』一夜漬け特集! by 添野知生さん」は聞いた)。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最新作としての面白さ、1億6500万ドルの制作予算をかけて取ったという映像の贅沢さ(100億円かけて作った映像を1900円で観れるなんてお得すぎるのでは、とつい思ってしまう)、当時から普遍的なメッセージを志向していた原作が大幅にアップデートされたこと、ティモシー・シャラメはじめとする出演者たちの演技合戦(特にシャラメのどう見ても15歳にしか見えない稀有な存在感)、みたいに、語りたくなるところがいっぱいある良い映画だった。

私は特に、ビジュアル面において、あのスターウォーズですらエピソード7も(今思うと)既存エピソードの焼き直し、オールドファンへの接待と片付けたくなるようなもので(エピソード8と9はいわずもがな)、またマーベルも『エターナルズ』がありつつ「そろそろ、超人的なスーパーヒーローが宇宙を救う世界に飽きてきた……」となってきたところだった。なので、舞台となる惑星アラキスの、スパイスがきらきらと舞う砂漠はじめ、これまで見たことがない宇宙船や道具や衣装など、文字通り「異世界」を見れたことが、大変満足した(もちろん、この作品内の世界が、人類が宇宙移動が可能になったけれどテクノロジーが衰退し、皇帝を頂点にした封建時代のような世界になっている、という設定も面白く、「異世界」体験に納得度を増した)。

特に好きなのは、冒頭だ。画面が真っ暗になり、いよいよ本編が始まるというたった数秒間、人間ともつかない謎の音声が鳴り響き、真っ暗なスクリーンに「夢は深淵からのメッセージ」という言葉が浮かぶ。

↓どう考えても違法映像だが、DUNE冒頭50秒の映像がなぜかYouTubeにあがっていた

この冒頭数秒の鮮やかさが、大変好きだ。わずか数秒、音と字幕というシンプルな道具だけを使い、観客をいきなり異世界へ放り込むことに成功している(それもあのビジュアル派のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が、映像を封印し、真っ黒な画面に字幕だけというシンプルな絵だけを提示してくるところにも、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の自信があふれているような気がして、悔しいが大好きである)。全く言葉がわからない外国に、いきなり放り出されてしまったような感覚。正直不気味で、夢に出てくるんじゃないかと思うくらいトラウマになりそう、怖い数秒間だが、この2021年になぜ今さらDUNEを復活させたのかの理由、このリブートを通じてこれまでのDUNEとは違う何かが言いたい映画なんだということを、感じさせてくれる。そこから続くチャニのナレーション「惑星アラキスは太陽が低い時が1番美しい(字幕だと「夕方が綺麗」だった気がしますがどうだったっけ……?)」、そして砂漠に身体を潜らせるフレメンの戦術を映像だけで説明するシーンと、完璧な冒頭映像の完成だ。何だか久しぶりに、本当に才能がある人が、すみずみまで考え抜いて作った映像を見ているなと、嬉しくなった。

 

また「夢は深淵からのメッセージ」という言葉もいい。本作の物語は、主人公ポールが、なぜかたびたび、夢で未来のビジョンを見れることを軸に推進していくが、そもそも夢というモチーフと映画は大変相性がいい(※多くの人が言及している)。本当には存在しない世界を、映画を観ている間だけは存在する(時には激しく感情移入する)ものとして、120分間強制的に体験させる時間芸術。映画を観ることは、目が覚めながら、誰か(物語の主人公や、その映画を作った人)の夢を追体験することに他ならない。「映画は夢の工場」という誰かの名言もある。

もちろん、作中のポールが「深淵からのメッセージ」として受け取る夢と、観客が娯楽として体験する映画では、同じ(?)夢としても性質がずいぶん違う。そもそも、眠っている時にみる夢と、将来について語る時に使う夢、まったく性質が違う単語が日英問わずなぜ同じ単語なのか。夢という言葉が持つ普遍的なロマン。繰り返しになるが、いよいよ本編が始まるというたった数秒間、人間ともつかない謎の音声が鳴り響き、真っ暗なスクリーンに「夢は深淵からのメッセージ」という言葉が浮かんだ時、「人知を超えたDUNEの世界へようこそ」と、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が渾身の力で用意した夢の世界へ誘われたのだと思う。

 

何かの作品について語る時に、他の作品をdisるのは大変下品なことはわかっているけれど……、同じく平行して公開されている、一応はSF映画と言ってもいいかもしれない(?)マーベル『エターナルズ』につき、マーベルが好きな人でもこの作品をどう受け入れるか物議を醸している。もちろん、クロエ・ジャオ監督も全力で本作を作っているのは間違いないのだが、「異国に移住したアジア人女性が、元カレとの問題はじめ色々ありながら頑張る話」という監督が私的にやりたかったことと、第二次世界大戦はじめ人類史すべてに「実はエターナルズが陰から並走してきました」という作品の表向きのテーマが座りが悪く(またクライマックスのイメージがエヴァにしか見えなかったという器の小さいオタクの感想……)、「あなたたちの妄想に付き合ってられるか」と、何だか今後のマーベルがどうでもよくなってしまった……。トム・ホランドスパイダーマンは好きなので『ノーウェイホーム』は観るつもりだが(ホームカミング、ファーフロムホーム、ときて「ノーウェイホーム」。なんとまたエモいタイトル)、しかしながらドクターストレンジが絡んで、時空がごっちゃになるマルチバース構造??? これまで、映画史に残る巨大プロジェクトをやってきてくれたマーベルだが、『エンドゲーム』をなかったことにする勢いで連発する加減はさすがに異世界ファーストフード感があり(スターウォーズ エピソード7~9も同じ)、今後もドル箱として止めることができないシリーズなのはわかるが『エンドゲーム』の感動は何だったのかと、マーベルが映画史に果たした役割が一定程度終わった気がするなと、冷めつつあった。そういう訳で、なおさら2021年に新規SF超大作を生真面目にぶちあげた『DUNE』の志が、大変に染みた。マーベルやスターウォーズのようなポップさが無く、一般受けするには可愛げがない、シリアスすぎる映画では……と杞憂したが、全世界で興行収入が3億ドルを超え、パート2が決まったそうで、本当に良かった。