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【ネタバレ有】感想『ボストン市庁舎』:ドキュメンタリーというより、ボストンを題材にした詩では

上映時間、274分のドキュメンタリー映画。長いッ!

映画館で観てきたが、家で観ていたら、絶対飛ばしてしまったと思う。

ボストン市政において、様々な会議の、様々な立場な人たちによる立論(発言)を、ひたすら記録したドキュメンタリー映画

この映画には、

(・大統領、国会議員 vs 市長 で発言する人)
・市長 vs 市役所員 で発言する人
・市長 vs 市民 で発言する人
・市役所員 vs 市民 で発言する人
・市民 vs 市民 で発言する人
・立論はせず、市のサービスを実行する人たち(清掃員、駐車監視員、獣医、塗装工事員、剪定員など

が登場する。

 

人間は、言葉を使って議論を行うことができる。
投票によって選ばれたリーダーを軸に、みんなが言葉を使って議論し、出した結論によって、私たちが住む場所をより「良い」(≒「みんな」が納得する……?)場所へと、変えていくこと。
それが、理想の社会の在り方だ。
……というようなこと、この映画から感じた。

 

政治を扱った映画ではあるものの、右派や左派やリベラルや保守……みたいなことは、あまり主張されない。オバマケアを褒め、トランプをdisる、という描写も出てくるが、あくまでボストン市や市民にとって都合がいいかどうかに留まり、それぞれの思想や、支持者にまでは言及しない。市長は帰還兵の集会に参加し、感動的なスピーチを行うも、あくまでボストン市民である帰還兵を市としてどうサポートできるかに関心があり、戦争そのものの賛否までには突っ込まない。


かと言って、「ボストン中心史観」的なものによって作られているかと言えば、そうではなく、中心的に描かれるウォルシュ市長についても、「スピーチや即興の受けごたえが上手な人」と感じられるに留まる。ウォルシュ市長が果たした功績については、彼や市職員の口から伝えられるのみで、全貌や信ぴょう性がわからない。そもそも、様々な会議の、様々な立場な人たちによる立論(発言)が映りまくるのはいいが、その後、それらの発言が、実際の政治にどうフィードバックされていったのか。スピーチが終わった場面で次の会議シーンに行ってしまい、発言が投げっぱなしになる部分が多い。検証がすっとばされたまま、様々な人たちが、言葉を使い、主張を行う場面が続く。

 

なので、繰り返しになるが、この映画は、自由に取材ができたボストン市庁舎を中心に、どういう社会が理想かを語る、1つのファンタジーのように思った。
「薬が高くて買えない」と嘆くおばあちゃん、賃金差別に立ち向かおうとするラテン女性、第二次世界大戦に参加した帰還兵のサインがびっしり入ったライフル銃の話、大麻売店の許可をめぐる業者と市民の会議、など、それぞれのエピソードは面白かったが、冒頭と最後を「市民から問合せ電話に、親身へ対応する職員の声」で挟む274分のドキュメンタリー映画は、ドキュメンタリーというより、存在しないユートピアを綴った、長大な現代詩だったように感じる。