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映画の感想やポエムなど

【感想】ネタバレ有『クルエラ』:文句を言っている時点で逆に好きかもしれない、けれども。

映画はじめあらゆるものについて、良くないところは目につきやすい。だけど本当に大事なのは、良いところや強みを見つけ、伸ばす方です。

他人の作品を批判する暇があるなら、物事の良い面をみましょう。

……という、精神で、やっていきたいのですが、すみません、実写版『クルエラ』の感想です……(^_^;)

ディズニーアニメ「101匹わんちゃん」に登場した悪役クルエラの誕生秘話を、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン主演で実写映画化。パンクムーブメント吹き荒れる70年代のロンドンに、デザイナーを志す少女エステラがやってくる。情熱と野心に燃える彼女は、裁縫やデザイン画の制作に打ち込み、デザイナーへの道を駆けあがるため切磋琢磨する。そのままデザイナーへの道を進んでいくと思われたエステラだったが、カリスマ的ファッションデザイナーのバロネスとの出会いが、エステラの運命を大きく変えることとなる。夢と希望にあふれた若きエステラが、なぜ狂気に満ちたクルエラとなったのか。その秘密が明らかにされる。クルエラ : 作品情報 - 映画.com

 

映画業界で、世界で1番(?)頭がいい(?)かつ、給料がいい人たちが集まっている会社の1つが、かの国のディズニーでございます。

 

何作目か数えませんが、ディズニー実写版シリーズの最新作。
観終わってから気が付いたのだが、今作の監督は『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2019年)のクレイグ・ギレスピー監督だったそう(個人的に『アイ, トーニャ』は2019年で観た映画のなかでベスト2位にしているくらい好きな作品だった)。なるほど、フィギュアスケート史上最大ともいわれる事件を起こした女性スケート選手(=「悪い」女性)の物語を手掛けた人が『クルエラ』とは、ディズニーさすがのキャスティング力……とは思うものの、肝心の映画自体は、申し訳ないがあんまりピンとこなかった。

 

色々言いたいことがあるのだけど、1番の問題は、本作が、「あの」101匹わんちゃんのクルエラが、なぜ誕生したのかという問いに、全く答えていないところだ。なんなら、今作のクルエラは、ダルメシアンには複雑な感情を持つものの、基本的には最後まで、自分や仲間の飼い犬をかわいがる愛犬家なので、そこから何があって生まれたての子犬の毛皮をねらうクルエラになったのか、説明が欲しい(もしかしたら、続編を考えているのかもしれないが)。
本作だけでは、この前日譚がなくてもあっても、101匹わんちゃん本編に影響がなく(≒本作の主人公があのクルエラである必要がなく)、「エピソード0」を描くスピンオフとしては微妙に思ってしまった。

 

また、今作のなかのクルエラは、幼少時代から並外れた才能を持っていたゆえに、周囲やルールになじめなかったりするのだが、決して悪いことをしたいわけではない。それが、途中から「born to be bad」と歌いだし、クルエラとして覚醒(?)した心情の移り変わりが、いまいちよくわからなかった。
クルエラは確かに、「持たざる」若者として、既存社会からはみ出た位置にいるが、その既存社会のてっぺんの近くにいるトップデザイナーからフックアップされたうえに転覆をはかり自分が王座に就こうとする……という感じにストーリー全体がなっちゃっているので、ミクロではbadなことをしているかもしれないが、本質的にはbadどころか王道、何なら正義側の主人公である。百歩譲って貴女、この文脈なら「born to be bad」ではなく「let it go」と歌ってほしかった。


そして、クルエラというキャラクターは、本来ならば悪役だ。ところが(図らずも引用してしまったが)レリゴーでおなじみ、『アナと雪の女王』エルサというキャラクターを生み出してしまったディズニーは、数十年にわたり世界中の女の子へ「プリンセス幻想」をばらまいた元凶として自己反省モード全開で、プリンセスと対峙する老婆や魔女や悪女側をケアする話を作ってきたという文脈の一環が『クルエラ』だと思うのだが、レリゴー要素と、悪役要素との、相性の悪さ、座りの悪さがすごい。
”「let it go」した結果「born to be bad」と気づいた!”というお話を、ディズニーは絶対作れないのである。
『ジョーカー』的なテイストと言いますか、「ディズニー初のR15!、可憐で無害な犬を無慈悲に殺しまくって、逮捕されても刑務所で嘲笑しているクルエラがラストカット!」……みたいな映画を観てみたかった。これはやりすぎだが、クルエラがなぜクルエラになったのかの説明を、しかもせっかくの悪役の前日譚なので、悪側に振り切ったファンタジーを見せるという手も、1つあるかと思う。「悪役も悪役で実は可哀想で……」(たとえば桃太郎で退治される鬼にも実は家庭があって……)みたいなことをいつまでも繰り返されても、桃太郎が好きな人にとっては良いが、あんまり面白みはない。

 

あとは、これもまた実写版ディズニーあるあるなのだが、ポリコレケアが今回も、恐縮ながらノイズに感じた。
特にエンドロール途中、サービスシーンとして入れてきたのかもしれないが「この話は101匹わんちゃん本編に繋がりますよ~」という若干蛇足感のあるボンゴとパーディの登場シーン、からの……なぜ、アニータを黒人女性ってことにした!!!
「原作のアニータは白人女性じゃん!黒人にしないで!!」という怒りでは、全くない。どちらかというと、「101匹わんちゃんが舞台になっている年代のロンドン市内で、黒人女性が、こういう立地のこういう雰囲気の場所に1人暮らしをしているのは現実的にあり得るのか???」「なぜ、ロジャーは白人のままなのに、アニータだけ黒人に置き換えたのか???」など、瞬間的に「?????」が沸騰してしまった。他にも、黒人俳優さんが要所要所にいるのだが、特に本作のように「1960~70年代くらいのロンドン」と、一応は舞台設定が具体的なディズニー作品において、人種配慮は却ってノイズだったりする(同じことは、ディズニーの実写版第一弾作品だったかなんだかの、実写『美女と野獣』で強く感じた)。


そのあたり、「いつか昔のどっかの中東」でお茶を濁しきれる『アラジン』は、ディズニーならではの夢を、これもまたディズニーにしか無しえない予算等をかけ、原作の改変部分も含め150%の魅力をプラスしてきた実写版『アラジン』というのがあったりし、ディズニー実写はそっちの路線に逃げた方がいいように思った。……とはいえで、あのガイ・リッチーを監督に招聘して作った実写版『アラジン』ですら、途中ジャスミン姫が実写オリジナル曲として突然人権を歌いだしたりするので、全てはポリコレ目配せなのはわかるが、なんかもう、誰に何の配慮をしたいのか、配慮していますアピールのための配慮パフォーマンスかなと、ついつい思ってしまうのが、ディズニー実写版シリーズへの物足りなさだった。

 

そのことが顕著に表れているのは、ポール・ウォルター・ハウザーに女装させるギャグを入れてきたことだ。「本当に適当な映画だな」と、ここで思ってしまった。ルッキズムについてどう思ってんの?(+α、面倒くさい映画ファン的には、これもまたジェンダー問題はありつつ『リチャード・ジュエル』を経た我らがポール・ウォルター・ハウザーに、そういうこと今さら、ネタとしてもさせるんじゃないと、ポール・ウォルター・ハウザー300%大好きの立場を勝手に一方的に、取っています)
製作陣の倫理観は、女性と人種問題しか見てないのでしょうかね。

 

あとは、エマ・ストーンについてとかもあります。好きな女優さんです。彼女は、目がとても大きいながらお顔全体は小さいような身体の作りをしている方で、かつ、原作101匹わんちゃん内のクルエラのイメージにあわせてきたのか、ただでさえ華奢なのが、ガリガリ体重落としてきたような印象があり、現在では32歳でいらっしゃるようですが、スクリーンに映っている姿がやせっぽっち少女感が満載で(加えて劇中、ファンキーなメイクとファッションをしている時間が長い)、後に子犬の毛皮をねらう百戦錬磨のババァになる風格が、残念ながら感じられなかった。「エステラとクルエラの二重人格」みたいな設定もありましたが、うーん何か何が悪かったのかわからないが、二重人格(すら! ※失礼ながら「二重人格すら!!」)演じ分けをあまり感じることができず、逆に言えば、二重人格なんて面倒くさいことは辞めて、潔い悪人伝にしてしまえばよかったと思いました。

「ファッション業界が舞台の女性主人公もの」をそんなに知らないが、今回の敵?として出てくる「カリスマ的ファッションデザイナーのバロネス」が、『プラダを着た悪魔』まんまで萎えたのもあります。カリスマデザイナーの悪女はスキンヘッドの紳士を従えているが、そのスキンヘッド紳士は、内緒で、若い主人公女性を助けてくれるのが鉄板なんでしょうか?

選曲が適当らしかった(参考:saebouさんのブログ)

全体としてファッションは眼福でした。

 

【テンションが下がったポイント】
・前日譚失格
ヴィラン(悪役)を主人公にする物語の難しさ:born to be bad というメッセージは共感しづらい
・選曲が適当らしい(参考:saebouさんのブログ)
・クルエラの曲がいつかかるのかと思ったら、エンドロールにちょろっとだけだった(原作曲全部がオミットされた実写『メリーポピンズ』より50,000倍マシでしたが、どこかがっかりした)
・実写版ディズニーおなじみのポリコレごり押しが今回もややノイズ
・その割にポール・ウォルター・ハウザーに女装をさせたのがどうなのかと持った
・「ファッション業界が舞台の女性主人公もの」をそんなに知らないが、今回の敵?として出てくる「カリスマ的ファッションデザイナーのバロネス」が、『プラダを着た悪魔』まんまで萎える
エマ・ストーン(32歳)、顔立ち+ファンキーなメイクと服のせいで、最後までティーンにしか見えん(あのクルエラに繋がる風格があるように見えなかった……)。二重人格演技も物足りない

 

【テンションが上がったポイント】
・ファッション
・犬が可愛かった
・予告編でもチラッと出てきますが、途中、シャンパン片手にバロネスがつまむオリーブが、大変美味しそうだった
⇒ 帰りがけに、最寄りのスーパーで5億年ぶりに、オリーブのオイル漬を買ってしまいました

 

オリーブうま!